亀家のドタバタ日曜日
イグリンコは疎外感を覚えた。なぜ、俺だけがこんなところにいなければならぬのか。イグリンコには人間の道理がわからぬ。イグリンコは、グリーンイグアナである。事情があって、人間のもとで暮らしてきた。けれどもガスボンベやボイラー、洗濯機、モップにバケツなどといった物どもに囲まれ、コンクリばかりの空間に閉じ込められる謂れはない。
最初は、それも致し方あるまいと思っていた。犬や猫どもが家のなかで楽しそうに過ごしていようとも、俺はイグアナだと自分に言い聞かせてきた。しかしもう、我慢がならぬ。やっと俺のもとにやってきた若き乙女イグコは、自在に出入りしているではないか。そうして、俺に愛想が尽きれば家の奥に姿を消して何日も、顔すら見せぬ。そんな理不尽が許されてよいものか。そう思った俺は、日夜アピールを欠かさず、こうしてとうとう家のなかに入ることに成功したのだ。
てなね、イグリンコの内心の声を聴いたような気がするほど、イグリンコ、私の部屋で幸せそうなんですわ……。野生の「や」の字ももう見られない。何なの、そのリラックスした様子、イグコよりも長くうちに暮らしてるみたいな顔しちゃってさ。
パソコンの裏で寝て目覚めた今朝は、もうどこにいるのかと戸惑うこともなく、余裕の大あくび。アダプタに乗っかってちょっとあったまって、出てきてご飯を食べて、窓のほうの枝に行ったかと思うと……ああああ〜! 枝のうえからドバーッとおしっことウンチを……。壁と本棚にもちょこっとだけど引っ掛けてくれちゃって……。うーむ、パソコン裏にやられるよりマシだけどさあ。しかしイグコは床に下りてするタイプだから比較的対策が簡単だったけど、イグリンコは枝のうえからか……どうしたもんだか。ちょっと考え中。
ここでやった。掃除したあとだけど。明日は枝を外してがっつり洗うよ。今日は朝から出かける用事がいくつもあって、合間合間に帰宅しては様子を見て対応してただけなので、あんまり時間がなくてねー。
そしてイグリンコが窓のほうに行ったすきに、イグコがアダプタを奪回。
イグリンコのほうは、ウンチなすりつけたあとの(いや、拭いたけど)枝でまったり。イグコにもぎりぎりくらいの細い枝なのに、けっこう寛いじゃってるよね。
そしてイグコがイグリンコのご飯を失敬している隙に、イグリンコがアダプタを奪取。
あのー、アダプタ返してほしいんですけど。
イグリンコ、ボビング。
私の部屋に来てから、イグリンコのボビングは回数が増えた。イグコに向けてしていることがほとんどだけど、たまに私にしてるの?って感じのときもある。Roll-Shudderってやつかな。45度くらいで、上半分で左右に振るような半円形の動きが入る。何を言ってるのかはわからないけど……。
しばらくしたら、イグコが諦めて? イグリンコを乗り越えていった。
こっちに日が当たってるもんね〜♪ イグリンコも出てきて、上半身日光浴。
ところが、午後も遅く、水槽掃除も終えて人間が居間でまったり映画など見ていると、イグコが部屋から出てきた。食堂のテーブルの下でトイレをする。もう完全にトイレ認定だね。イグコ用のたらいを置いてたんだけど、ここ二日ほどは来てなかったから、掃除のときにたらいを椅子のうえに置いてそのままだった。イグコが出てきたのに気付いたのが遅くて、いることに気付いた次の瞬間、ジャー。まあいいよ、拭けばいいんでしょ、拭けば。
ところが私が掃除しているあいだに台所から疑惑の物音が。見に行くと、やっぱりー!
イグコがどうやってか、ガスコンロに上がることに成功。うーん、いつかは来ると思ってたけどね。
このとき、というかもうずっと、ニャンコは台所の窓の外にアノールトカゲを見つけて狙っていた。ずーっと追いかけてた。アノールのほうも金網越しだからニャンコには手が出せないとわかっているのか!? 金網の向こう側を行ったり来たりしてからかってる? そこにイグコが、そしてそれに釣られてワンコがやってきた。
ニャンコー、何してるのー? と覗き込むイグコ。しかしニャンコは、イグコがこれだけ物音を立ててガスコンロに登ったり、流しやら何やら行き来してても、アノールに集中しきっていて気付いていなかったらしい。いきなり後ろから覗きこまれて、どひゃっと飛び上がって、ぴゅーーーーっと中庭まで駆け抜けたよ。中庭で振り向いて、背中丸めて尻尾膨らませてw
前に、フトアゴか何かのトカゲをソファの影からじいっと見つめていた仔猫が、後ろからやってきた別のフトアゴに気付いて、飛び上がって逃げる動画が人気になってたけど、あれと同じ感じだった。ニャンコにしてみたら、必死に追っていたトカゲがいきなり100倍くらいの大きさになって後ろから来たようなもんだったのかもねw
しかしイグコにあまり台所をウロウロしてもらっても困るので、抱き上げて中庭へ。
イグリンコが私の部屋で、イグコが中庭、逆転だけど、まあそれもいいんじゃない? と言いつつ、ドアは開け放したまま、映画を見に戻ったんだけど。
しばらくしたらイグコ、戻ってきた。居間にやってきて、気付いたワンコが近付くと、ソファに寝転んでた私を乗り越えて、
ソファの背中に陣取る。それを見たワンコ……。
いつもイグコやらニャンコとニャンタやらばっかりソファに上がってずるーい! と思ったのか、いきなりダンナの横にどっかりと座り込んだ。
まあワンコ、最初はソファに上がらないようしつけてたんだけど(上下関係云々より物理的に狭くなると思って)、私たちが留守のあいだ、寒ければ勝手に上がって寝てた。私が家にいても見ていなければ上がってた。で、見つかると、のっそり下りてたw いや、下りなくていいんだよ、ってことを最近ようやくわからせることに成功したとは思ってたんだけど。
以下、ウハウハダンナの連続写真。
なでなでされて、ワンコがどんどんのけぞっていくよ。
まあこれでワンコも納得したんなら、よかったよかった。
ところが、そんなことをしているあいだに悲劇(?)が。
ぎゃー、ニャンタ、何してるの!!! キッチンペーパーが……。最初、ワンコがやったのかと思うほどの惨状だったよ。でもワンコはずっと私たちと一緒にいたもんねえ。それに犯人が、もう一度現行犯やってくれてるし。
片付けながらも、さらにじゃれてくるニャンタに、あんたはもうッ、こっちで遊びなさい、とワンコのおもちゃを押しつける。
ワンコは、ご飯(特にツナ)に関してはニャンコニャンタが近付くと警告するんだけど、おもちゃはぜんぜん構わないらしい。
ちょっとだけなら一緒に遊んであげてもいいよ?
という、ドタバタな日曜日。映画は、ダンナの英語のヒアリング練習のために古いものを借りてきて見てるので、前に見たことある映画だったしいいんだけど、半分くらいしか見られなかったけどね。
イグコは結局私の部屋に戻って本棚のてっぺんの寝床へ、イグリンコはもう完全に自分のベッドって感じでパソコン裏で寝てる。これで、邪智暴虐の飼い主も暗殺のたくらみはされずに済むかな……。